医学生への教育

See one, Do one, Teach one.
なんていう格言が、医療の世界にはある。

なにかモノを学ぶときには、
まず見てどんなものかを知って、
自分でやってみて確かめて、
そして他人に教えて理解を深める。

海外で医療をやっていると、
最後の「Teach one」の比重が、
日本と比べて大きいと感じる。

ここケープタウンの小児病院は、
ケープタウン大学という、南アフリカだけでなく、
アフリカ全土でも有数の大学の、関連病院の1つだ。

日本のポリクリのように、医学生が定期的に来る。
あちこちの病棟で、学生相手の教育回診が行われている。

毎週行われる術前術後の画像カンファにも、学生たちが後ろの席を陣取っている。
そういえば日本だと、学生や研修医は前に行けと言って、
上級医たちは後ろの席にいるが、
ケープタウンの病院は、偉い先生たちが一番前に固まってガンガン意見を言っている。

レントゲンを見ながら症例についてある程度ディスカッションが進んだあと、
外科の上級医のひとりが後ろを向いて話し出す。

「学生のみんな!
この症例から学べることは、
新生児の胆汁性の嘔吐、産まれたばかりの緑色の吐物をみたら、
腸捻転を絶対除外しなきゃいけないということだよ!」

短いレクチャーが始まる。
完全に会議を中断している。
でも他科の先生たちも誰も文句を言わない。
ここは教育の現場なんだっていう意識が強い。

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担当する手術が終わって一息ついているところをめざとく見つけられた。

「トオル!学生たちのレクチャーお願いしていい?私いまから手術なの!!」

ケープタウン大学の医学生に、
小児外科のレクチャーと、外科の縫合の指導を合わせて1時間担当することになった。

できあいのクイズ形式のスライドを使いながら、
いろいろ質問したり、逆に質問されたりする。
医学部5年生だけどけっこうしっかり勉強している。
鋭い質問も来るが、
いくら英語でもさすがに学生レベルなのでちゃんと答えられる。ホッ
中にはスマホいじっている輩もいるが、
自分のコメントを急いでノートに写しているマジメな学生もいて嬉しい。

こうやって他人に教えることは、
小児外科の知識の整理にもなるし、
なにより英語を使って医療知識をやりとりするいい機会になる。
これはいい。
学生に教えるのはみんな煙たがっているが、
これからは自分が進んでやらせてもらおう。

意外と大変なのは糸結びを教えること。
わかりやすく、しかも英語で伝えるのはかなり難しい。
結局、ひとりひとり手取り足取り教えてまわった。

「Thank you!」

みんなお礼を言って帰って行った。
いい子たちだな・・・ってあれ?
使った道具、やりっぱなしだよ!
なぜか教えてる方の自分が後片付けをしてる・・・

「やっぱ外国に来てるんだなー」とあらためて実感した。