ドイツのオーケストラ

小学校の頃のあだ名なんて、たいていたいしたネーミングじゃない。
バイオリンを習っているというだけでキザ呼ばわりされている男がいた。
その彼に会うために、ドイツにやって来た。

以前、応募したヨーロッパ小児外科学会に
なんとか採用されて(「キプロスへの道」参照)、
キプロスに行くことになった。
実は昨年、南アフリカに来る直前に、小学校時代の同窓会があった。
ほとんどが小学校を卒業してから一度も会っていない輩ばかり。
けっこう集まったが、そのバイオリンの彼は来なかった。

「なんかずっと音楽やってて、今はドイツでオーケストラに入ってるらしいぜ」

彼とは小学校のころ仲が良かっただけに、会えないのは残念だった。
でも南アフリカとヨーロッパは近い。
今回のキプロス行きに合わせて、ドイツに立ち寄ることにした。

彼に連絡すると、ちょうど自分がドイツに行くときに、演奏会があるとのこと。
正直言って、音楽といえばジャズとかラテンとかばかりで、
クラシックは苦手だ。
もちろんオーケストラのコンサートなんて行ったこともない。
演奏会場で寝ないかどうか心配だ。

駅を降りて15分歩いたところの会場に着くと、
蝶ネクタイと燕尾服という出で立ちの日本人が迎えてくれた。
20年以上ぶりの再会を、ドイツの地方都市で果たした。

会場の客のほとんどが高齢者。
みんなきちんとオシャレしている。
完全に場違いな格好の自分だが、演奏者の知り合い専用の席に案内された。

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満員の客が拍手で迎えたのは、演奏者60人以上の大オーケストラ。
白人に混じって彼がいた。
こんな遠く離れた異国のオーケストラに、アジア人の彼が堂々と立っている。
隣の白人の美人奏者と談笑している。
すげえ、小学校時代の友だちが、完全に世界に認められているんだなあ。

さらに大きな拍手の中、登場したのが、今日のソリスト。
ロシア人の若手ピアニスト、Alexei Volodin。
1曲目はラフマニノフの曲。
正確かつ細やかな演奏。
ジャズとはまったく異なる音運びだが、
これが一流だということははっきりわかる。

マイクを通さない、生の楽器のたくさんの音が、会場を包み込む。
これはCDやテレビじゃ感じられない。
クラシックのオーケストラは特に、
実際に会場に来て聴かないと、わからない音がある。

1曲目だけで40分も弾いていた。
ピアノはこの曲だけらしい。
ものすごい歓声の中、ソリストが指揮者と一緒に舞台を降りるが、
また出てきて歓声が上がる。
これを何度か繰り返す。
クラシックのお作法なのかなと思ったら、突然アンコール曲を弾き出した。

ピアノ独奏。
変態的な早弾き。
ぜひジャズの世界に来てソロを弾いてほしい。

アンコールが終わって、舞台を降りて、また出てきて、また弾きだした。
これがさっきと打って変わって、静かなショパンの曲。
誰でも知ってるこの曲を、なんのひねりもなく、だがものすごく美しく弾いた。
こんな美しいショパンがあるのか。

演奏会が終わり、友だちのよしみで、
オーケストラの打ち上げに忍び込ませてもらった。
古くからある劇場の楽屋だけあって、
ちゃんとしたビールサーバーがあり、本場のドイツビールが飲める。

ドイツ、最高だわ。旧友に感謝。

ちゃっかりピアニストにサインもらっちゃいました。

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