胸腹部外傷2連発!

「10歳の子がバスにひかれたって!早く来て!!」

救急に急いでかけつけた。
なにやら重傷っぽいのが二人もいる。

「こっちは頭部外傷だけだから。あなたはそっち診て!」

今日の救急はざわついている。
10歳の男の子、スクールバスに乗り上げられたようだ。
搬送された直後の病院ですでに挿管されて、右胸腔ドレーンも入っている。

あらためて外傷の一次評価、二次評価を行う。幸いバイタルは落ち着いている。
胸部周囲に皮下気種を触れる。
やはり胸部にダメージがあるようだ。
なんらかの画像による評価が必要になる。
日本と違って、南アフリカはCTを撮る敷居がものすごく高い。
その代わりに、Lodoxと呼ばれる、全身のレントゲンを撮れる機械が救急に置いてある。

f:id:emboshona:20170516080006j:plain

CTに比べて被曝量も少ないし、胸腹部レントゲンだけでなく、
全身の骨折の評価もできるので、外傷患者にはもってこいだ。

f:id:emboshona:20170516080350j:plain

右気胸がはっきりと見られる。
ドレーンが入っているのに肺が拡張していない。
気管支損傷が疑われる。
気管支鏡をやったら右気管支に大きい孔が開いていた。
胸部外科を呼んで、緊急手術になった。

夜になってまた救急から連絡が来た。
「4歳の女の子がクルマにひかれたの!」

この子は挿管はされておらず、バイタルサインは落ち着いているようだ。
でも呼吸の仕方がきつそう。

救急医が得意げにレントゲンを見せてきた。

f:id:emboshona:20170516080312j:plain

ん?左の胸がおかしいぞ?
読者の方はおわかりだろうか?

「私が胃管を入れたあとの写真はこれね」

f:id:emboshona:20170516080253j:plain

胃管の先端が左胸に来ている。
そう、これで診断がはっきりとした。
左の横隔膜に孔が開いて、胃と腸管が左の胸に飛び出してしまっている。
外傷性横隔膜ヘルニアだ。
こちらは我々小児外科医の専門分野。
23時頃、手術室に向かった。

腹腔内に入って、左胸腔に飛び出た腸管を引っ張って元に戻すと、
横隔膜にばっくりと8cm程度の孔が開いている。
緊張もなくうまく縫合できた。
その他の損傷は、脾臓に小さな裂創があるくらいで、
幸い大きな臓器損傷はなさそう。

それにしても大きな交通外傷が3件も立て続けに来た。
これら全部、タウンシップと呼ばれる貧しい地域からの患者だ。
家が所狭しと並んでいて、玄関を出るとすぐ道路という環境のため、
子どもが飛び出してひかれるという事故が後を絶たない。

ちなみに日本では、交通外傷が激減している。
飲酒運転が減ったり、速度規制やシートベルト着用などが徹底してきたからだろう。

南アフリカでも何か対策はできないのだろうか・・・。
一筋縄ではいかないことはわかる。
でもここまで多いと、ほんとなんとかしてほしい。