マラウィの小児外科医

マラウィには小児外科医が一人しかいない。

そんな噂はずいぶん前に聞いていた。
どんな人がやっているのか。
どっかのタイミングで見に行きたい。
日本からはとてつもなく遠いが、
飛行機1本で行ける南アフリカにいるうちに行きたい。
そんな思いが、南アの研修が終わる直前に実現した。

ヨハネスブルグから2時間あまり飛行機で北上すると、
人口1,800万の小国に着いた。
まだ初春の肌寒さが残る南アからちょっと北に来ただけなのに、
ここは暑いアフリカ。
黒人だらけのリアルアフリカだ。

病院見学1週間の滞在先は、病院の敷地内にある訪問者用宿舎。
そこから歩いてすぐに、古くて大きな平屋建ての病院とは全く別の、
真新しい2階建ての建物がある。
これが最近、米国人シンガー・マドンナの寄付で建てられた、
小児外科専用の病棟だ。

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この病院の小児外科を取り仕切っているのが、Dr. Borgstein。
彼はもともとオランダ人だが、両親ともに医師で、
両親がここマラウィで医療活動を始めた。
ドクター自身も幼少期はマラウィで過ごしたらしく、
現地の部族語も堪能だ。
オランダで外科医の資格を得て、親の意思を受け継ぎ、
自身もマラウィでの医療活動を20年以上前から行っている。

時々手伝ってくれる海外からの医師がいたようだが、
数年前までは実質一人で小児外科を行ってきた。
今では若手も育って、研修医も入れて5人体制で行っている。

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年齢はもう60を超えているだろう。
それでも手術はほとんど自分で行い、外来も病棟も全部回っている。
若い医師たちは、最終判断をこの医師に求めて、意思決定を行う。

小児外科と言っても、扱う領域の幅広さがすさまじい。
胸腹部外科、泌尿器科はもちろん、
頭頚部腫瘍や口唇口蓋裂、髄膜瘤、動脈管開存(PDA)閉鎖までやっちゃう。

「自分がやらないと誰もやる人がいないから」
笑いながら話す。
この人、小児外科が本当に好きなんだ。

もちろん南アフリカと比べてもずっと所得の低い途上国だけに、
医療資源は限られている。
腹腔鏡はないし、中心静脈栄養(TPN)もない。
血液ガスや画像検査も限られるし、
病理に提出しても、紛失して結果が返ってこなかったりする。

それでも、そんな状況でも、できることを可能な限り最大限行う。
そんな意気込みがひしひしと伝わってくる。
先進国の人間が来て、
「こんなのもないの?」なんて見下すことは決してできない。
ここで働く人たちの、ここまで築き上げた努力は計り知れない。

この1週間いただけで、
食道閉鎖、前縦隔腫瘍、髄膜瘤、脳瘤、尿道下裂、ウィルムス腫瘍・・・
いろんな手術に立ち会うことができた。
鼠径ヘルニアなど小手術は2ヶ月先まで埋まっている。
ウィルムス腫瘍は3人ほど手術を控えていた。
腸チフス穿孔なんてのも病棟にいる。
症例数はものすごい。

無理して来てよかった。
もう2度と来られないかもしれない、
マラウィでの医療を見られたのは財産だ。

今の自分の実力ではまだまだ太刀打ちできない。
でも近い将来、このオランダ人医師のように、
アフリカで闘える人間になっていたい。