手術で自立する

病院は12月上旬から早くも休み体制。
予定手術はなく、ベッドはガラガラ。
病棟は朝からクリスマスソングがガンガンかかっていて、
働く気配全くなし。

それでも緊急手術の数は減らない。
割り当てられた当直医が、次々と送られてくる患者を対応する。

今日の当直担当は若い医師と自分の2人だけ。
困ったときは上級医を呼べるが、
基本的には病棟も手術も全て自分たちで解決する。

日本では、研修医が執刀する場合、ほとんど上級医が助手に入る。
これは安全性が高いのは当然だが、いつまでも上級医に頼るわけにもいかない。

手術は一件一件異なり、全く同じ手術というのはない。
たとえ定型的な手術であっても、
解剖がふつうと違ったり、いきなり出血したり、いろんな問題に直面する。
そんなとき上級医が助手だと、だいたい上級医が解決してしまう。
最初はそれで学ぶが、どこかの段階で卒業しなきゃいけない。

ケープタウンの研修医たちは、日本と比べて、
かなり早い段階で自分だけで手術している。
症例数が多いということもあるだろう。
それでも、問題を自分たちで解決する姿は、年次以上に大きく見える。

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一緒に当直している若い医者から連絡があった。

「11歳男児、3日前からの腹痛と嘔吐。
腹部全体に痛みがあって、腹膜炎症状が出てきている」

この年齢で腹痛といえば、一番多いのが虫垂炎、いわゆる盲腸。
痛みが右下腹部にあればほぼ間違いないが、
今回の症例は、典型的な経過ではない。
日本なら腹部エコーやCTで確認するといった手段があるが、
こっちではそう簡単に検査できないので、ほとんど検査せずに診断する。
病歴と身体所見が頼りだ。
診断の確信は持てないものの、病態からは手術が必要なのは間違いない。
手術室に腹腔鏡での緊急手術を申し込んだ。

虫垂炎の手術は日本で多く経験しており、
こっちでも自分だけでまかされるようになってきた。
ただ今回は開けてビックリということもあるので、
もしものときはお願いします!と上級医に念を押しておいた。

おへそからカメラ用ポートを入れると、いきなり汚染腹水が出てきた。
炎症が広がっているのは間違いない。
腹腔鏡カメラを入れておなかの中を見てみると、炎症が強くて癒着だらけだ。
「あーこれは難しいねー、開腹移行だねー」
とナースがつぶやく。
でも開腹よりも腹腔鏡で手術した方が、合併症のリスクが減り、
できるなら腹腔鏡でやれるにこしたことはない。
ちょっと粘ることにした。

「早く開腹に切り替えてよ・・・」というプレッシャーを感じつつ、
腹壁の癒着を剥がし、他のポートを入れ、なんとか腹腔鏡手術の準備を整えた。
癒着した腸を探っていくと、穿孔した虫垂を発見!
診断は急性虫垂炎で間違いなかった。
ここからはいつも通りの手順、滞りなく手術を終えることができた。

けっこう大変な症例だったが、こうやって上級医がいない状況を切り抜けると、
達成感は大きく、自分の自信につながる。

いい意味で自由が与えられているこの環境。
一つ一つ丁寧にやって、この環境で得られるものを得ていきたい。