教科書に載ってない病気

救急医から電話がかかってきた。

「3歳の女の子。イタズラされて棒のようなものを入れられて出血してるんだ!」

急いで救急外来に向かう。
たしかに膣から出血している。
パンツは血まみれ。
幸い血圧などのバイタルサインは落ち着いているようだ。

詳しく事情を聞いてみる。
母親が言うには、2日前に2歳年上のお兄ちゃんが、
棒のようなものを膣に入れたらしい。
でも出血しだしたのは今朝からだという。よくわからん。

父親に聞くと、朝、出血にビックリして、
性的虐待を受けたんじゃないかと警察に連絡して、
事情聴取など受けていたらしい。

救急医は虐待患者に使う感染症キットを準備していて、いつでも検査万全の状態。

でもなにかおかしい。
病歴がなんかつじつまが合わない。
当の本人はケロッとしている。

患部をよく見てみると、たしかに出血しているが、
傷ついているような様子はない。
部分的に腫れている。
なんだろうこれは?

写真を撮って上級医に見てもらった。
すると一発診断。
「これ、尿道脱でしょ」

尿道脱?
日本では見たことがなかった。
こっちの救急医も見たことないようだ。

上級医は言う。
「たまにいるよ。血まみれで虐待とかと間違えられて来るんだ。
軟膏つけておけば治るよ」

教科書を調べてみた。
日本のバイブル、天下の標準小児外科には載っていない。
何冊か英語のテキストを見ると、かろうじて2ページだけ載っている本があった。
黒人に多く見られる病気らしい。

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日本であまり見かけない病気は他にもある。
例えば、胎便性イレウスの赤ん坊がいたとき、
嚢胞線維症(Cystic Fibrosis: CF)を疑って検査したら、
本当にCFと診断された子がいた。
逆に日本で比較的見かける胆道閉鎖症なんかは、こっちでは非常にまれだ。

人種が変われば病気も変わる。
当たり前なんだろうけど、リアルに目の当たりにすると、
日本からずっと遠いところで働いているんだなって思う。

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