クジラに出会える町

日本が夏を終える頃、ケープタウンには春が訪れる。
冬と言っても雪が降るほど寒いわけではないが、
人々の活動レベルはぐっと下がる。
そんな冬の終わりの一大イベントが、クジラの到来だ。

Hermanusという、クジラと出会えることで有名な町が、
ケープタウンからクルマで2時間程度のところにある。
南アフリカは、人が住む地域から野生のクジラが見える、世界でも数少ない場所だ。
クジラたちは、1年間の半分を南極付近でプランクトンなどを食べながら生活し、
残りの半分を、出産のために南アフリカ付近の海にやってくる。

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高速道路を離れ海岸線を走ると、途中にペンギンが集まる村があった。

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ケープタウンの近くで見られる有名なBoulders Beachのペンギンたちは、
たくさんの観光客の中に迷い込んだ感じだったが、
ここStoney Pointは、ペンギンたちと人間が、
たまたま同じ場所に住んでいるというくらい自然にたたずんでいる。

海岸線にはポツポツと小さな村がいくつかあり、のどかな景色が続く。
目的のクジラの町まであと30分くらいの場所だろうか。
突然クルマが止まった。

実は出発の2日前、家に帰るときに、なにやらクルマの調子がおかしかったので、
レンタルしているオーナーに見てもらっていたのだ。
週末に遠出するんだけど、大丈夫?

「全く問題ないよ!」

即答だったので、すっかり安心していたら、これだ。さすがアフリカ。

完全に何もないところで止まった。
周りには助けを呼べる家も店もない。

幸い携帯はつながった。
オーナーに連絡すると、
「OK、1時間で迎えに行くよ!」

いやいや、絶対そんなに早く来ないでしょ。
なんとかHermanusのタクシー会社と連絡が取れ、クルマは道路脇に放置して、
タクシーで人間だけピックアップしてもらうことにした。

Hermanusに着く頃にはもう日が暮れかかっていた。
予約していたレストランの時間はとっくに過ぎている。
仕方なく宿からぶらぶら歩いて、いい感じのシーフードの店を発見。
新しいクルマを持ってオーナーがかけつけたのは、すでに夕飯を食べ終えた頃だった。

翌朝、さっそく海岸に出てみた。
すると、いた。

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波は穏やかで、海はものすごくきれい。
その美しい海を、優雅にゆったりと泳いでいる。
時おり潮を吹くのがわかる。
時間が止まったような田舎町の、時の流れをまったく邪魔することのない存在感だ。

昼からはボートに乗った。
30人乗りくらいの中型ボートに観光客が乗り込む。
ドローンも一緒に乗っているのが今っぽい。

20分くらい船を走らせると、数頭の群れに遭遇した。
岸から観るよりもずっと近くでその大きな身体を確認できる。
自分たちの船の下を潜り込むように泳いでいく。

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日本からあまりに遠い地だけに、
クジラが観られる場所があるなんて知りもしなかった。
いろんな偶然が重なって勤務することになった南アフリカ。
自分に与えてくれたものは計り知れない。

残りの滞在期間は1ヶ月余りとなった。