すぐ隣りにいる同僚
「腹減ったなー。メシ食いに行こうぜ」
「おーいいね。どこの店にしよっか?」
こんな何気ない会話も、ここケープタウンだと気軽にはできない。
南アフリカは、アフリカの中でも別格に金持ちだ。
スタバ的なちょっとオシャレなコーヒーが200円、
レストランでちょっとしたものを食べると500円。
物価は日本の5-7割くらいか。
でもこの額を払えるのはあくまで白人を中心とした富裕層。
大多数の貧しい黒人たちは、ほとんど金を使わない生活をしている。
外来受診するための数十円の交通費が出せないために、
病院に来るのをドロップアウトしちゃう。
南アフリカでこんな状況なので、他のアフリカ諸国から来る人らは、もっと金がない。
病院に研修に来てる人たちも、医者とはいえ、
南ア人と同じように飲み食いできるアフリカ人は見たことがない。
危険で有名なナイジェリアから来た小児外科医が、2ヶ月前から一緒に働いている。
でも彼は医師免許登録手続が終わっていないため、見学だけでずっと過ごしている。
彼はナイジェリアの危険な香りはまったくせず、非常にいい人だ。
英語のアクセントが強すぎてなに言ってるのかほとんどわからないのだが、
外国人同士よく一緒に過ごしている。
よく考えると、彼がなにかを食べたり飲んだりしているのを見たことがない。
そう、圧倒的にカネがないのだ。
ケープタウンでの生活費は、ナイジェリアとはケタが違う。
コーヒー1杯分の金額で、ナイジェリアならなにができるのか?
考えただけで、コーヒーなんて買えるわけがない。
なんでケープタウンに来たのか聞いてみた。
「2年前に、ケープタウンで3日間開催された、
小児外科のトレーニングコースがあったんだよ。
それに思い切って参加したのがきっかけでここまでつながった。
ケープタウンに来ることが、自分の環境を変えるチャンスと思ってね」
医者の研修コースは基本的に高額。3日間で数万円なんてざらだ。
ナイジェリアとケープタウンの往復の飛行機代と合わせたら10万円以上する。
どうやってその費用を捻出したの?
彼は笑いながら答えた。
「クルマを売ったんだよ」
気合いが違う。未来を切り開くための気合いが全然違う。
彼は見学だけでなにもできなくても、ずっとうちらと一緒に行動している。
夜遅い臨時オペも見に来る。
空き時間に、ナイジェリアに残してきた奥さんとかわいい娘たちの写真を見せてくれた。
今朝の回診後に廊下で会うと、笑顔で話しかけてきた。
医師登録手続の一部が完了したって。
「やったね!コーヒー飲みに行こうぜ。ごちそうするよ」
なにかしらおごる口実を見つけたら、気持ちよく2人でお店に行ける。