知りたくなかった現実

いつかは自分のところにまわってくるんだろうなと思ってはいたが、
ついに来た。

まったく予想もしていなかった。
朝から小手術をいくつか担当していて、
一息ついたところにいきなり声をかけられた。

「トオル!オペ室に行ってもらえる?」

下半身に外傷を受けた8歳の少女。
執刀を担当する女医さんの体調不良で、急きょ自分がピンチヒッターになった。
昨夜、口論になった若い男友達に下半身を蹴られたとの触れ込みで、
陰部からの出血が止まらないとのことで当院に搬送となった。
でも話を聞くような、明らかな打撲のあとは見つからない。

そう、性的虐待症例だ。

ケープタウンは、性的虐待を受けて受診する患児の数がものすごく多い。
加害者は同世代の子どもだったり、もう少し年上の知り合いだったり、
大人だったり、自分の親だったり・・・。
あまり深く知りたいとは思わない。
でも目をつぶるわけにはいかない。

手術室に入ると、虐待セットなる検査キットが準備されており、
綿棒で膣に精液など付着していないか検査する。
そして詳しく診察すると、子宮の入り口近くから肛門にかけて、
バックリと裂けている。
いわゆる3度会陰裂傷だ。

「これは蹴られてできる傷じゃないね。
なにかしらのモノを入れられたとしか説明が付かないよ」
上級医が言った。
「トオル、しっかり記録しておいてよ。
裁判所に行ったとき、トオルが書く手術記録が証拠になるんだから」

裂傷部位はしっかり縫合し、肛門括約筋も部分的な損傷で済んだ。
なんとか大きな後遺症は残らないで済みそうだ。
でももちろん、心の傷は縫って治せるわけじゃない。

f:id:emboshona:20170118155631j:plain

オペ室から出たら、山のようなペーパーワークがやってきた。
体の隅々まで、どの部分にどれくらい損傷があるか細かく記入する。
そして本人の病歴の質問もある。

「生理は何日周期か?」

まだ8歳だよ。始まってもいないよ。