2週連続の肝腎移植?!
だいたい夕方4時頃になると、みんなそろそろ帰るかなという雰囲気になる。
特に金曜午後の、もう話しかけてくれるなオーラはものすごい。
外科チームも例外ではない。
来週の手術予定の患者をおさらいする術前カンファが終わると、
「ではよい週末を!」
と言ってとっとと帰って行く。
ただ今週はちょっと違った。
カンファ中に、上級医の1人が電話を受け、切るなりメンバーに叫んだ。
「移植が入った。明日朝7時から、肝臓と両方の腎臓ね」
おーまたか!2週連続なんてすごい!
とテンションが上がっているのは、
イギリスから研修に来ている女医さんと自分の外国人チームだけ。
プライベートを大事にする南ア人の顔には、
「なんで土曜日に働くんだよ・・・」と書いてある。
平日に行われた先週の症例のときは、あんなにたくさん来ていた移植外科医も、
ほとんど来られないらしい。
いやいや、移植ってだいたい緊急であるもんでしょ・・・
でも人が少ないということは、それだけ手術に関われるチャンスが多いということだ。
土曜の朝。
だいぶ前から手術室で待機していたが、7時を過ぎてもほとんど外科医がいない。
麻酔科医がしびれを切らしている。
ようやく移植外科医が到着し、ドナーからの臓器摘出術が始まった。
もちろん助手で入ることができた。
今回のドナーは4歳の女の子。
Fallot四徴症という心疾患を持っており、当院ICUで急死した。
執刀医は成人病院の移植外科の女医さん。
最初は雑談したり、解剖を教えてくれたりしていたが、徐々に口数が減っていった。
なにかがおかしい・・・
「血管がやたら細いのよ」
たしかに4歳といえど、大動脈はしっかりとした太さがあるはずなのに、
大人の末梢血管くらいしかない。
拍動も触れにくい。
摘出した肝臓を詳しく見てみる。
うちの小児外科医も交えて協議した結果、
この肝臓を移植しても保たないだろうという結論にいたり、
肝移植は中止となった。
移植を受けるはずだったのは、やはり4歳の女の子で、
胆道閉鎖症術後の肝硬変の子だった。
出血を繰り返していて、早く移植させてあげたかったのに。無念だ。
摘出した腎臓も、血管が細く、腎臓自体も小さかった。
本来ならひとつずつ2人の子に移植する予定だったが、
ふたつの腎臓を1人の子に移植することとなった。
移植を受けるのは17歳の女の子。
Fanconi症候群という腎疾患で、長い間透析をしている。
17歳だが体は小さく20kgしかない。
でも中身はふつうの若い女子。
麻酔がかかる前に、手術室に流れる曲を聴いて、
「私この曲好き!」「いいね!誰のファンなの?」
といった、ふだんオペするちびっ子とはできない会話を楽しんだ。
肝臓と二つの腎臓、合わせて3人に移植するという当初の目的はかなわなかった。
でもしかたない。
与えられた状況下で最善のことはできたはずだ。