ガーナの洗礼 第2章

外来の日は、午前中に山のように患者がやってくる。
二つの部屋に医者が5人くらいで外来患者を診ていく。
ひとつのテーブルの周りに椅子がいくつか並べられていて、
患者が次々と医者の前に座らされる。

看護師に呼ばれて椅子に座ると、
目の前になぜかアジア人が座っていたらそれはビックリするだろう。
そんなリアクションがだんだん面白くなってきた。

外来の日は、終わったあとに病棟でみんなでランチを食べるのが恒例だ。
ガーナめしは、キャッサバとかを練ったものを右手にとって、
豆や肉が入ったスープにつけて食べるというスタイル。
その場にいる女子が準備から片付けまでやる。
その子が事務員だろうが医者だろうが、
絶対に女の人が全部やる。
男たちは食べるだけだ。

「トオルも食べなよ。うまいだろ?!」

外国のこういう状況で、
村野武範バリに、うまいうまいと言って食べるのには慣れている。

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翌朝は放射線カンファレンスだった。
30人くらいを前に放射線科医が、
レントゲン生フィルムをサーキャステンにかけて、
細かい読影の説明をしていた。
日本みたいに画像が電子化されていないので、
生のレントゲン写真を使うしかない。
胸部や腹部のレントゲンはともかく、
B4サイズのフィルムに30分割くらいの腹部CTの細かい解剖の説明をされても、
この大きい教室では厳しいものがある。

「さすがにこれは見えないだろ」

と心の中でツッコミ入れていたら、突然の腹痛に襲われた。
やばい。これはやばい。
急いで部屋を出て、なんとかして宿舎にたどり着いた。
腹痛がハンパなくて立つことすらできない。
スーツケースに這って行って、やっとのことで、
日本から持ってきた唯一の味方、新ビオフェルミンS錠を取り出した。

これもガーナの洗礼か・・・。
ちょっと慣れてきたと思っていたが、そんな甘くはないな。
さすがだぜ、アフリカ。

次の日、腹痛は少し残っているが、歩けないほどではない。
二日連続では休めない。ガーナに来たばかりだし、心配もかけたくない。
顔を合わせると「How are you?」と聞かれる海外。
作り笑顔で出勤した。

それにしても腹痛の原因はなんなのか?
最有力はもちろんあのガーナ料理。
でもみんなでワイワイ食べたあの料理が原因とは、
口が裂けても言えない。
よし、仕事の合間に怪しい売店で買った、
怪しい揚げ春巻きが悪玉ということにしておこう。

「トオル、大丈夫か?」

みんなが心配してくれる。

「いやー、売店の春巻きがたぶん古かったんだねー」
「そうだよそうだよ、でもそのうちガーナの食事にも慣れるから」

そういうもんかなあ。

そしてその日もみんなで病棟でランチをシェアする場になった。

「トオル、今日は別のメニューにしたから!」

はっきり言ってあまり前回との違いがわからない。
多少材料が変わっているみたいだが、
練り物と汁物という鉄則のコンビネーションは崩さない。
しかも今日の汁は、ちょっと赤めで辛そうだ。
今の腹の状態でこんなの食べたら終わるな。

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「トオルも食べなよ。うまいだろ?!」

いやいや、だから腹壊してるんだって。
さっきから話してるでしょ。

でもこの人達にとって、このガーナの練り物汁物コンビは、
誰もがうまいと思って当然の価値があるということに、みじんの疑いもない。

村野武範的には、ここで食べないわけにはいかない。

「いやー、今日のも最高だわ」
親指を立てれば、そうだろうそうだろうとみんな満足げだ。

なんかこの感じ、
沖縄のおばぁの「かめーかめー(食べなさい食べなさい)」攻撃に
通じるものがあるな。