体重1kgの赤ちゃんの手術
いくら外科医といっても、
自分の専門外の領域は手を出しにくい。
骨は整形外科医にまかせたいし、
脳はやっぱり脳外科医に、
もちろん心臓は心臓外科医にお願いしたい。
そしてどんな外科医でも、未熟児や新生児はできたら扱いたくはない。
そう、そんな小さい赤ちゃんを得意とするのが、うちら小児外科医だ。
妊娠33週で産まれた、生後6日目で体重1kgの赤ちゃん。
レントゲンでFree air、遊離ガスが見られるとのことで
近くの産婦人科病院から呼ばれた。
Free airは消化管穿孔の所見。
小さく産まれた未熟児で消化管穿孔といえば、
真っ先に思いつくのがNEC、すなわち壊死性腸炎だ。
体の成長が進む前に産まれてくるため、
腸も脆弱で、簡単に孔があいてしまう。
産婦人科病院に行くと、本当に小さなBabyが寝ていた。
お腹はガスでパンパンにふくれている。
経皮的にドレーンを入れて減圧を試みた。
全身状態は悪くない。当院までの搬送にも耐えられそうだ。
救急車の手配をお願いして、一足先に自分の病院に戻った。
当院でのレントゲンでは、Free airははっきりしない。
でも腸管壁の壁内気腫を疑わせる所見がある。
NECの診断で矛盾しない。
ICUで受け入れて検査を続けるうちに、一気に状態が悪くなっていった。
今、開腹すべきか否か。
麻酔科・外科・ICU医で協議したところ、緊急手術の方針になった。
開腹すると、小腸と大腸のつなぎ目の回盲部で穿孔していた。
全身状態が悪いため、Damage Controlの方針で、
穿孔部の切除だけしてICUに戻った。
2日後のセカンドルックで吻合。
ここは自分が執刀させてもらった。
体重1kg。全てのパーツが小さい。そしてもろい。
組織を持つとき、ちょっとでも力を入れれば崩れてしまいそうだ。
電気メスは先端がピンのように細いものを使い、
切るというよりは筆をなぞるような操作で、薄く薄く剥離していく。
吻合の際、腸の内側の粘膜部分は持たないようにして、
外側からできる限り小さく把持して、小さい6-0の針で吻合していく。
メガネにくっついたような形のルーペ拡大鏡を使わないと、
この細かい操作は厳しい。
なんとか吻合はできたが、腹部のテンションが強くて、
創は開けたままで術式終了。
また数日後に手術室に戻って閉腹する予定にした。
一見うまくいったように思えても、あの組織のもろさだったら、
自分のちょっとした動作で、どこに傷をつけていてもおかしくない。
たったひとつの小さな傷でも、たとえ針穴ひとつでも、命取りになりかねない。
こんな小さな子供たちを専門に扱うのが、小児外科医の仕事だ。