新聞の一面
医療の世界では、異動や転勤で病院を立ち去る医者に、皮肉半分で送る言葉がある。
「今度、顔を見るとき、新聞の一面で見るってことないようにね」
それぐらい、医療ミスや医療事故は起こる可能性があるし、
マスメディアの関心はとても高い。
たしかに医療事故を報道する記事は多いし、
外科医という職業柄、危険と隣り合わせだけに、他人事ではない。
自分が入った手術が一面を飾った。
でも医療事故ではない。
生後3ヶ月の赤ちゃんが銃で撃たれたというショッキングな事件が起きた。
事の真相は定かではない。
場所はケープタウンのタウンシップと呼ばれる貧しい黒人の居住地域。
我が子を抱いていた母親は死亡し、
腹部と右下肢に銃弾を受けた赤ん坊が子ども病院に運ばれた。
全身状態は悪い。
血圧もなんとか保っている状態だ。
急いで手術室に運び、整形外科もスタンバイしている中、開腹した。
小腸、大腸ともに損傷しているが、
幸い腹腔内に便が漏れているということはなかった。
腸管以外の臓器損傷もなさそうだ。
結局3カ所の腸管吻合と、4カ所の直接縫合を行って閉腹した。
麻酔科医のおかげもあって全身状態は改善、右臀部に埋まっている弾丸も取り出し、
整形外科の処置も終えてICUに入室となった。
実は前日にも8歳の女の子が銃で撃たれて運ばれていた。
その子は状態が落ち着いていたが、徐々に悪くなってきて手術が必要と判断された。
1日で2件目の銃弾による開腹手術だ。
外傷医によれば、この2件を含み、1ヶ月で6件の銃による被害があったとのこと。
中には一生車イス生活となるような後遺症を患う症例もあった。
子どもに面と向かって銃を向けることはさすがにない。
基本的には、大人たちの抗争に巻き込まれての流れ弾による被害だ。
隣りの成人病院には、ひっきりなしに患者が運ばれてくる。
こないだの給料日あとの週末には、2日間で20件も銃による外傷があったそうだ。
どうなってんだいったい。
子どもたちは全然悪くない。罪もなにもない。