おチンチンの話

小児外科医をやっていると、患者の陰部を診る機会がものすごく多い。
でも子どもが相手なので、特に抵抗はない。

男児の陰部・鼠径部の病気は、小児外科の専門領域だ。
外来をやっていてお母さんの訴えで最も多いもののひとつに、
この皮を切ってくれ、というものがある。
Circumcision、いわゆる包茎の手術だ。

外国人の子供をみると、
小さい子でもすでに皮がむけていてビックリする経験をお持ちの方もいるだろう。
日本では包茎の手術をする習慣はないが、
海外では小さい頃に手術を受けることが多い。
しかし、包茎は年齢が上がるに伴い自然になくなることが多いので、
基本的に手術は必要としない。
感染を繰り返したり、
皮が大きすぎて排尿時に膨らんでしまうような病的な包茎のときに手術を検討する。

実際に、今まで手術を当たり前のようにしていた欧米諸国でも、
「必要ないですよ」という啓蒙活動が進んでいる。
ここケープタウンの病院でも、外来の診察室の壁に、

「当院では、病的な場合と宗教的な理由の場合を除き、
包茎の手術はいたしません!」

と宣言している紙が貼られている。

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それでも包茎手術を受けている子供たちはたくさんいる。
やっぱり手術させたい親たちは、我が子を近くの開業医に連れて行く。
そういうところでは、全身麻酔下での手術ができないので、
局所麻酔で、リングをはめてガチャンと皮を切る簡易的な包茎キットを使う。
けっこう術後の成績はいいみたいだが、
それでも腫れたり尿が出なくなったりする合併症はあり、
そういうときに夜中に開いている当院の救急外来に運ばれてくる。

1歳男児が定期外来に来た。
包皮が大きくて、尿が陰茎の根元にたまってしまうとのこと。
膿みたいなものが出ることも時折あるようだ。
前回受診時にも、包茎手術を薦められたが、
ご主人と相談すると言って今日になっていた。

「やっぱり手術は必要と思います」

どちらかというと手術をしたがる人が多いのに、このお母さんは渋っている。
この家族はコザ族という民族の人。
コザ族の人々には、青年期を迎えると、「大人の儀式」として、
皆で山に向かい、山でひとりひとり皮を切られるという習慣がある。
山から降りてくると、一人前の男になったとして祝福されるのだ。

同僚にもコザ族の医師がいる。
やっぱり山に行ったの?って聞くと、

「あそこだと同じ包丁を使ってみんなの皮を切るから、感染とかすごい問題なんだよ。
だからおれの場合は、
近くのクリニックに行って手術受けてから、山に登ったんだ。ははは」

さすが医者になるような金持ちはやることが違う。

とにかくこの儀式は、コザ族の人にとってとても大切なもので、
1歳の時に手術するなんてとんでもないことだ。

外来室に上級医が見に来てくれた。

「じゃあ、皮を全周性に切り取る手術をするんじゃなくて、
背面の皮膚に切り込みを入れるだけの方法がいいんじゃない?」

「それがいいです!」

お母さんの顔に、とびっきりの笑顔が広がった。