膀胱損傷2連発!

日本で小児外傷に携わった頃、小児科の偉い先生に言われたことがある。

「子どもの外傷はね、だいたい通学の時間帯に起こるから、
夜中に起こされることはないよ」

たしかに夜中のバイク事故とかないもんなあ。
子どもを専門に選んでよかったー。

当直の日の夜23時、電話が鳴った。

「9歳の女の子がバスに乗りあげられたらしい!」

なんでこんな時間に子どもがバスにひかれるんだ?!
とにかく救急に急いだ。

初療医が診てくれている。
幸い全身状態は安定しているようだ。
気管挿管もされていない。

よくよく話を聞くと、事故にあったのは午後3時らしい。
なんでここにたどり着くのが夜なんだ?!
どこか他の病院に寄ってから来たようだが、とにかく搬送が遅い。

あらためてABCから評価する。
目立つのは腹部の擦過傷と血尿だ。
レントゲンでは明らかなFree air、腹腔内ガスはないが、骨盤骨折はある。
腹腔内臓器損傷、特に泌尿器系が怪しい。
腹部造影CTと膀胱造影をオーダーした。

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腹腔内臓器に大きな損傷はなさそう。
尿道から挿入した造影剤が、腹腔内、腹腔外に漏れて、上腹部まで到達している。
膀胱損傷で間違いない。
泌尿器科コールだ!

なんてやってると、新しい外傷の子が運ばれてきた。

「5歳の男の子。歩行中にクルマにひかれたって!」

もう0時まわってるぞ・・・。
これもよく聞くと、事故に遭ったのは朝の8時らしい。
早く連れてきてくれ・・・。

この子も幸い血行動態は安定していた。
大きな骨折などないようだ。
でもやはり血尿があった。
肉眼的にはわからないが、検査でわかる顕微鏡的血尿3+。
腹部膨満も認める。
やはり腹部造影CTと膀胱造影をオーダー。
まだ放射線科医がいるから助かった。
こっちでは、造影CTは放射線科医がいないと撮影できない。

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この子は、腹腔内に液体貯溜を認める。
そして尿道からの造影剤は、今度は腹腔外のみに漏れ出ている。
これも膀胱損傷か?!
そして腹腔内の液体は、
腹腔内臓器損傷からの血液なのか、それとも膀胱損傷からの尿なのか・・・。
さっきの子を診ている泌尿器科医を捕まえて相談した。

一人目の子は、朝になって手術室に行き、膀胱損傷を修復した。

二人目の子はしばらく様子を見ていたが、
やはり手術室に行き、膀胱頚部損傷が見つかった。
腹腔内の液体は血液で、肝損傷からの出血と考えられた。

結局、一晩で膀胱損傷を2例も立て続けに診ることになった。

「子どもの外傷は日中に起こる」

この常識は、ここケープタウンでは全く通用しない。