キプロスへの道

医者には患者の治療以外にも、大事な仕事がある。
それは「学会発表」とか「論文作成」とかいうものだ。

世界中のいろんなところで学会は開催される。
去年はナイジェリアでのアフリカ小児外科学会に参加したし、
せっかくなら日本からはあまり行けないところに行ってみたい。
調べたら、今年のヨーロッパ小児外科学会が、キプロスで開かれるとのこと。
キプロス?!
どこかよくわからないが、聞いただけでワクワクしてきた。
症例数が多いこのケープタウンの病院なら、きっといい臨床研究ができるはずだ。
よし、がんばって抄録書いてキプロスに行くぞ!

自分は外傷に興味があるので、小児外傷のデータをあたってみた。
担当の教授に話を聞くと、過去数十年のデータがまとまっているとのこと。
おっ、なんかスムーズに行くかもしれないぞ。

データをとりまとめている担当の女性のところに行ったら、
翌日には過去10年分のデータが送られてきた。
おっ、さすがアフリカナンバーワン小児病院。

だがデータをよく見ると・・・
「腹部外傷の有無」としか書かれておらず、どこの臓器に損傷があるのかわからない。
まあCT見ればいいか、と思って放射線科に問い合わせると、
2012年にシステムが入れ替わったから、それ以前の画像は見られないと。
じゃどうしたらいいの?

「カルテの中に読影レポートが入っているから、それを読めばいいよ」

え?あの手書きのカルテっすか?!
入院患者のカルテはベッドサイドに置いてあるが、
それ以外の患者のカルテは、カルテ室なる場所に保管されているらしい。
どこにあるのか同僚に聞いてみた。

「あそこヤバいよ。行けばわかる。素人には見つけられないから」

2階のカフェテリアの奥にあるという情報を頼りに行ってみたら、
こんなところだった!

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一応、番号ごとに分けられているみたいだが、
床の上や棚の上に、無造作に平積みにされているのはどうなってんの??

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管理している人がいた。
10ケタの患者番号の下3桁ごとにラベルがあるから、それを頼りに探せと。
まずは10冊ぐらい探してみることにした。

ひとつひとつ、じゅんぐりじゅんぐり番号を探してみる。
かなりとびとびだが、一応、順番通りに並んでいるっぽい。
受験の合格発表を思い出すが、目的の番号を簡単に飛び越えていく。
サクラチルの連発だ・・・

結局、10冊中3冊しか見つからなかった。
「すいませーん」
職員に泣きついた。
すると彼はとび職のごとく、棚の間を縦横無尽に飛び回り出した。
禁断の平積みもくまなくチェックしている。

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「はいどーぞ」

すげえ、残りの7冊全部見つけてきた。
餅は餅屋だわ。さすが。

ようやくゲットした手書きカルテ10冊から、読影レポートを探す作業が待っている。
もちろん日本なら、電子カルテでワンクリックで得られる情報です。
アフリカで臨床研究は・・・オススメしません。

演題登録締切の日が迫っている。
はたしてキプロスに無事たどり着けるのか?!