乗り合いタクシー
金曜の夜、なぜか男3人で街中のレストランに入った。
南ア人(黒人)、カナダ人(白人)、日本人(黄色人)というナゾの3人組。
半分バーみたいな感じで、
クラフトビール飲みながらでっかいハンバーガーを食べられる、
お気に入りの店だ。
最近カノジョと別れた南ア人の同僚が、
1人で酒を飲んでいる女の子に声をかけた。
4人目の席を埋めようと必死だ。
カナダ人とふたりで1杯目のビールに口をつけるかつけないかのタイミングで、
南ア人の彼はすごすごと引き返してきた。
「もう帰るんだってさ」
そっか、おつかれ。
2杯目のビールも中盤にさしかかったところで、ついにバーガー登場。
これがむちゃくちゃうまい。
うますぎて会話も弾む。
カナダ人の同僚が自分のスマホを見せてきた。
「そういえばこないだ、ヨハネスブルグでこんな事件あったの知ってる?」
立て続けに3人の若い女性が、乗り合いタクシーの運転手にレイプされて、
ニュースでも大きく取り上げられていた。
知り合いのヨーロッパ人の友人も、乗り合いタクシーの最後の乗客になり、
そのまま郊外に連れて行かれてレイプされたらしい。
この乗り合いタクシー、ケープタウンにもたくさん走っている。
運転は荒く、信号無視も平気でする。
交通事故で乗客が巻き込まれて、病院に運ばれて来ることも頻繁にある。
通り沿いを歩こうもんなら、
「タウンまで行くけど乗らないか?!」と大声で誘われる。
運賃は50円弱。
公共交通機関がほとんどないだけに、利用客は多い。
もちろん乗客は、自家用車を持たない貧しい黒人ばかりだ。
南ア人の同僚が教えてくれた。
「これもアパルトヘイトの遺残なんだよ」
アパルトヘイト時代、白人と交わらないよう、
黒人の交通手段として、乗り合いタクシーが生まれた。
アパルトヘイトが終わり、黒人も職に就くようになり、
それに伴って乗り合いタクシーの数が激増した。
そんな中で、レイプ事件などの犯罪も増えた。
でも規制をすると、タクシー会社がボイコットする。
ボイコットすれば、黒人らの多くは職場に行くことができず、
社会がまわらなくなるため、警察や政府が手出しできない。
その結果、凶悪な犯罪も後を絶たない状況が続いている。
そんな乗り合いタクシーに、ついに乗る日が来た。
別に乗りたいわけではなかったが、
ガーナ人の同僚と一緒に出かけるときに使ってみることになった。
ぎゅうぎゅう詰めの車内に押し込められた。
日中だし、友人も一緒だから危険な感じはあまりしない。
でも、1人じゃ怖くて乗れないな。
乗客のほとんどは、このタクシーの危うさを知りつつ、
他の選択肢がないので、乗らざるを得ない。
なんだかんだ、医者らと付き合うことが多くて、
触れあう貧しい人たちは、患者かナースだけだ。
その人たちの本当の生活を知っているわけではない。
知る機会すらほとんどない。
こうやって彼らと同じクルマに乗っている。
でも、隣に座る人との距離は、ものすごく遠い。
こういう人の子供たちを、日々うちらは手術している。