汚れていい子なんていない

生まれつきの病気の一つに、肛門がうまくできていない病気がある。
腸があるべき肛門の場所から出ないで、本来の穴から前寄りに出ていたり、
全然肛門に開孔していなくて、尿管や膣につながっている病気だ。
これら直腸肛門奇形は、うちら小児外科の専門分野だ。

火曜日は定期手術がなくて、午前中はみんな外来診療にかり出される。
一般外来は便秘とか停留精巣とか、ベーシックな症例が多い。
でもさすがにもうだいぶ長くこっちにいるので、
直腸肛門奇形を持っている患者専門の外来に回してもらうことになった。

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9歳の男の子。小さい妹と一緒に連れられてきた。
直腸肛門奇形で生後すぐに手術を受けて、長らく当院の外来に通っていた子だ。
でもカルテを見ると、2013年を最後に外来に来ていない。
連れてきたのは、実の母親ではなく、一時的に預かっているケアワーカーとのこと。

「ずっと便を漏らしているので、家中が汚れてしまうのよ」

ケアワーカー曰く、彼らの母親はアル中で、
しかも他のオトコと一緒に住んでいるため、この子たちの面倒はみられないらしい。

直腸肛門奇形の子供たちは、手術がうまくいっても、
そのあと長期間にわたり、便秘や便失禁といった問題と向き合うことになる。
薬を飲んだり、肛門から腸を洗浄したり、自宅での細かなケアが、治療に欠かせない。
こういった世話がされないと、便を漏らしたりして、
生活に大きな支障を来すことになる。

ケアワーカーは言った。

「いつも便を漏らすから、学校側も面倒見切れなくなって、
去年から学校に行けていないの」

こっちの小学校は一クラスの生徒が多く、教室にぎゅうぎゅう詰めになっている。
先生の数も足りていないのだろう。
そんな環境で、手のかかる子を受け入れるのが大変なことは容易に想像できる。

日本や欧米諸国では、
こういった生まれつきの病気を持っている子たちも、ちゃんと学校に行けるよう、
きめ細やかなサポートが行き届いている。
でも貧しいアフリカの子供たちは、病気が原因で、教育を受けられない。

じゃあ診察させてもらえるかな、と聞くと、
「Yes, of course」
何を聞いても、「Yes, of course」を繰り返す。
あまり英語がわかっていないっぽい。
普段から物乞いをして生活費を集めているため、
こんな受け答えになっているようだ。

学校に行かない。物乞いをする。
彼がこの貧困の悪循環から抜け出すのは難しい。

アメリカの直腸肛門奇形を扱う病院のホームページは語る。
“No child wants to be dirty (汚れていい子なんていない)”

メッセージはかっこいいし説得力はある。
でもこの貧しい環境にいる子供たちはどうしたらいいんだろうか?

アフリカにも、汚れていい子なんていない。