肛門がない!
当直の日の夜中0時、近くの病院から電話がかかってきた。
「産まれたばっかりの女の子なんだけど、肛門がないんです」
34週2,100グラムの早産児。
直腸肛門奇形、いわゆる鎖肛が疑われる。
すぐに手術が必要になるため、うちの病院に搬送してもらうよう伝えた。
いまかいまかと待ち受けていたが、患児が到着したのは朝の5時。
クルマで10分の距離なのに、なぜ搬送に5時間も・・・遅っ!
幸い元気そうだが、呼吸数は60回以上。異常だ。
おなかは張っている。
そして肛門はやっぱりどこにもない。
女性生殖器の発達も未熟だ。
尿道も開いているかはっきりしないが、オムツは微妙に濡れているから、
どっかに孔はあるんだろう。
小児外科は、発生学、すなわち人間がどのようにできあがるかというところと
ものすごく関係している。
ヒトはいろんなパーツからできていて、お母さんのおなかの中にいる間に、
微妙なバランスの中で組み合わされてから産まれてくる。
そのバランスのどこかが崩れて産まれてくると、奇形となる。
今回の直腸肛門奇形は、
腸と膀胱と生殖器が、本当は離ればなれになって産まれてくるところ、
なぜかどこかでうまく離れなかったり、くっついた状態のまま産まれてくる病気だ。
会陰部を見て、その孔の数で奇形の種類がわかる。
女の子の場合、通常は、膣、尿道、肛門と3つの孔があるはず。
この子は・・・
孔ひとつ。かろうじて尿道口があるだけだ。
病気としては、総排泄腔型(Cloaca)と呼ばれる、
体の中で、尿道に膣と腸がつながっているタイプが疑われた。
うちの病院は、このような病気をたくさん診ているので、
家族に説明するためのプリントがうまくまとまっている。
今回は一番右下のタイプだ。
結局、その日のうちに手術をして、
膣と膀胱にはドレーンを入れて、腸は人工肛門にした。
根治術は数ヶ月後に行う予定になった。
直腸肛門奇形は、命に関わることは少ないけど、
治療後、排便など生活に困らないようにするのが大変。
ちょくちょく外来に来てもらって、
指導や処置をしなくちゃいけないが、
ここ南アフリカでは、通院を中断してしまう親が多い。
受診する金がないのか、交通手段がないのか、
病気のことを理解するだけの教育が足りないのか・・・
ただ困るのは子どもだ。
ドロップアウトすると、うんちまみれの生活になる可能性が出てきてしまう。
「どんな子だって、便で汚れたくないんだよ」
上級医が言った。
本当にその通りだ。