また腹痛患者が来た。
小児患者で腹痛の訴えは多い。
その中で、外科的処置が必要な疾患は限られる。
腹痛といえば・・・
こんなパターン化した考えが、大きな落とし穴になり得る。
12歳男児。
右陰嚢痛、いわゆるタマ袋の痛みを主訴に来院した。
診察すると明らかに右側だけ赤黒く腫れている。
夜中に腫れと痛みで起きたとのことなので、発症から16時間は経過している。
陰嚢が突然痛み出す原因はいくつかあるが、
最も先に考えて除外しなければならないのは、精巣捻転症だ。
これは突然、精巣に続く血管などの組織がねじれてしまう病気で、
血流が途絶えて精巣が壊死してしまうため、見つけたらいち早く解除する必要がある。
ただこの精巣捻転を解除するのは、
ゴールデンタイムが6時間と言われていて、
それ以上時間が経過すると、回復する見込みは薄いとされている。
今回の症例は16時間経過しているのでちょっと厳しい印象。
ふだんはこの疾患を疑えばすぐに手術室に行くが、
いったんエコーで調べることにした。
「外科医にとってエコーは聴診器代わり」と言われるとおり、
日本なら自分でパパッとエコーをあてるが、
こっちの病院では、エコーの機械自体が救急にはなく、
わざわざ患者をエコー室に連れて行って、
放射線科医にお願いしないといけない。
エコーでは、明らかに右側の精巣の血流が落ちている。
精巣の根元では、血管などがねじれているのがはっきり見えた。
精巣捻転で間違いない。
ゴールデンタイムは過ぎていて望み薄だが、手術室に急いだ。
結果は残念ながら、予想通り右精巣が壊死していた。
左側も開けてみるとこちらは正常。
将来的な捻転予防に固定して閉創した。
実はこの子、2日前に右下腹部痛で当院を受診していた。
12歳男児で右下腹部痛と言えば、急性虫垂炎、いわゆる盲腸を真っ先に考える。
症状としてはっきりせず、一晩入院して経過観察されていたが、
やはり虫垂炎っぽくなかったので、食中毒疑いで帰されていた。
そのときは本人の陰嚢痛の訴えもなく、誰も精巣を診ていなかった。
当院で虫垂炎患者はものすごく多い。
連日多くの虫垂炎疑いの患者が来て、
毎日のように虫垂炎の手術をしている。
右下腹部痛と言えば虫垂炎。
あまりに症例が多いために、
もうこんなパターン化した思考ができあがってしまっているのだ。
このような症例から、我々医師は学んでいかないといけない。