エキノコッカス
日本であまり見ないけど南アフリカでよくある病気シリーズ。
「エキノコッカスと言えば北海道のキツネ」
医師国家試験で呪文のように覚えるキーワードのひとつだ。
動物を媒介として人間に感染する寄生虫で、
肝臓に悪さすることが多い。
6歳女児。
肝臓にでっかい腫瘤がある。
エコーでエキノコッカスの感染による嚢胞と診断され、手術することとなった。
開腹すると肝臓のすぐ前に明らかな嚢胞を認めた。
穿刺したら透明な液体が出てきた。
エキノコッカスで間違いないようだ。
嚢胞壁を切開すると、真っ白なゼリー状の袋が飛び出してくる。
嚢胞自体を摘出する必要はなく、薬剤を注入して閉腹した。
すぐ隣の部屋では、5歳の女の子にやはり肝臓の腫瘤の手術をやっていた。
この症例は、術前のMRIで、後腹膜にある腫瘍じゃないかと診断されていた。
開腹すると、腫瘍が横行結腸とくっついている。
丁寧に剥がしたが、その奥で、膵臓ともべったりくっついていることがわかった。
まずい、これは摘出できないかもしれない・・・
教授も登場して手術に加わった。
「これは無理だ。生検だけしてお腹を閉じよう」
悪性もあり得るのかな、抗癌剤が必要なのかな・・・
手術室に暗雲が立ちこめ始めたとき、ちょっと穿刺してみようという話になった。
シリンジを入れてひいてみると、透明な液体が出てきた。
あれ、これさっき見たのと同じだけど・・・
「エキノコッカスだ!」
マジか!それならこの嚢胞を取る必要はないし、悪性でもなくてよかったー
嚢胞壁を切開すると、やっぱり白いゼリー状の袋が飛び出してきた。
それにしても1日にエキノコッカス2件なんて!
オペ室の控え室で興奮しながら話していると、脳外科医が話しかけてきた。
「トオル、もう一件あるよ」
なんとエキノコッカスが脳に入り込んでいる!
肝臓と脾臓にも感染していて、まず脳の手術をやってから、
うちら外科に紹介するって。
それにしてもところ変われば、こんなにも病気が違うのか。
今までの勉強でできあがった先入観を、一度全部取っ払う必要がある。