銃で撃たれる子どもたち

「外傷を学ぶにはヨハネスブルグに行け」

こんな格言が、血の気多めの医者たちの間にはある。

ヨハネスブルグは南アフリカ東部にある、国内で一番大きな街。
「5分歩いたら襲われる」とまことしやかに言われる、
世界有数のデンジャラスな場所である。

ここケープタウンは、ヨハネスブルグよりも安全、
と言われてはいるが、とはいえ同じ南アフリカ、
行くところに行けばやはり危険だ。

タウンシップ、という聞き慣れない言葉がある。
アパルトヘイト時代、白人と黒人は住む地域が分けられ、
貧しい黒人たちが押し込められた区域のことをタウンシップという。

アパルトヘイトが終わった今でも、この区切りはなくなっていない。
ケープタウンの空港をおりて、中心地に向かうまでの道の両側には、
明らかに貧困層が住んでいると思われる、掘っ立て小屋が並ぶ。
しばらく走ると、そのエリアの道路側に続く高い壁が見えてくる。
その中にどんな生活があるか、人目には触れないようになっている。

黒人の同僚が教えてくれた。
「この国には、差別が表沙汰にならない、うまい仕組みがまだ残っているんだよ」

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当直勤務のとき、外傷チームから連絡があった。
「11歳の銃創患者がいる。見に来てほしい」

日本で出会うことはない症例、
子供の銃創。
さすがの南アフリカでも、子供に向かって銃を突きつけたりはしない。
流れ弾に当たって被害を受ける子供が搬送される。

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弾は前胸部から入って右側腹部に留まっていた。
体表から弾を触知できる。
レントゲンにもしっかり写っている。
肝臓を貫通しているが、幸い手術にはならず、保存的に治すことができた。

受傷起点を聞いてみた。
「20歳代の若いギャングたちの打ち合いに巻き込まれて撃たれた」
タウンシップでの出来事だったようだ。

弾は取り出さないこともあるが、本人の訴えも強く、
状態が落ち着いた頃に取り出すこととなった。

同僚が得意げに聞いてきた。
「トオル、弾丸の取り出し方知ってる?」
知るわけないでしょ。

弾をつかむ器具にゴムバンドをつけて、
把持した拍子に弾丸の組織が体内に漏れないようにしていた。

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本物の弾丸を実際に見たのも触ったのも、生まれて初めての経験だ。

この子は大きな問題はなく助かりそうでよかった。
でも、同様に銃で撃たれる子供は、
小児病院である当院に、少なからず運ばれてくる。
働き始めて1ヶ月ちょっとで、もう3人目だ。
搬送されてくる患児は氷山の一角で、
受診できずに命を落としている子供がたくさんいるのだろう。

一方、成人について言えば、タウンシップ近くの病院に行けば、
1日に銃創が3-4人も救急搬送されてくるらしい。

わざわざヨハネスブルグまで行かなくても、
外傷はここケープタウンで充分学ぶことができる。