郷に入れば・・・

手術の世界は基本的には徒弟制度。
自分の前に立つ上級医は絶対的な存在だ。
こちらは学ばせてもらっている身。
上級医によって微妙にやり方が違うが、それを合わせるのは、
学んでいるこちら側だ。

ここケープタウンの病院は、国際色が豊かだ。

前立ちの先生も、いろんな国の人がいる。
外科医は、育った環境によって、様々な個性がある。
日本だったらある程度一緒だろうと思うことも、全然違ったりする。

自分が執刀で、トルコ人医師が前立ちの時だった。
なにかやる度に、
「違う!そうじゃない!!」
とトルコ式を伝授してくる。
日本で習ってきたことをやってるだけなのになあ・・・

一通り山場を超え、前立ちが手術室から立ち去り、
ひとりで最後の縫合をしているとき、
「大変ね。でも外国から上の先生が来ると、いつもこうよ」
と優しい麻酔科の先生が慰めてくれた。
しかも美人。
なぜか麻酔科には美人が多い。

一番困ったのが、小児外科で最も多い鼠径ヘルニアの手術。
南アのやり方は、日本とは全然が違う。
最初は日本のやり方でやっていたが、前立ちの先生が
「こいつなにやってんだ?」
みたいな目を向けてくる。
やはりここは「郷に入れば郷に従え」だ。

「すいません、イチから教えてください」

今まである程度の鼠径ヘルニア手術を経験してきたが、
頭を下げて、南ア式を教えてもらった。
すると前立ちの先生も、ひとつひとつ丁寧に教えてくれる。

自分とは違うやり方を見ると、人は拒否反応を示しがちだ。
でもいったん理屈がわかると、治したい相手の病気も解剖も同じ、
やっていることにそう大きな違いがないことがわかる。
逆に、
「なるほどこういうアプローチは、自分のやり方でうまく行かないときに使えるな」
と思えてくる。

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この病院にいるときは、この病院のやり方でとことんやっていこう。
自分が上の立場になったとき、自分なりに日本と南アのやり方をいいとこ取りして、
より良い形にすればいい。
それまでは、南アの一流の先生たちの技を一個でも多く学んでいこう。

上級医が立ち去り、ひとりで最後の縫合をしているとき、
むりやり麻酔科の美女医に話しかけた。
ほら、こういうときの表現、なんていうんだっけ?

「"When in Rome, do as the Romans do" でしょ?」

そうそう、それそれ。