紙カルテ
こっちで働いててなにが困るって紙カルテ。
そんなの昔は当たり前だったぞ!
と上の先生方にはお叱りを受けそうだが、
IT世代としては、電子カルテに慣れすぎてて不便きわまりない。
電子カルテなら、PCに向かいさえすれば、
どの患者の記録も検査結果も画像結果もいっぺんに見られる。
でも紙カルテだと、当然ながらカルテは
患者ひとりに対してひとつしか存在しないので、
その患者のことを知るためには、
患者の近くに置いてあるカルテにアクセスしなきゃわからない。
違う場所に保管しているときもよくあって、それを探しまわっているとき、
自分はなにをやっているんだろうと悲しくなってくる。
患者一覧もないので、
今、うちの科に誰が入院しているのか、誰が退院したのか、
それも把握するのも一苦労。
手術記録ももちろん手書き。
一つはカルテに、もう一つは保管用にということで
カーボン紙で写しを作る。
今どき!カーボン紙って!!
ひとり上級医の女医さんで、むちゃくちゃ字が汚い人がいる。
外人が書くアルファベットっていうだけで読みにくいのに、
さらに字が汚いとほんとに解読不能だ。
手術が終わると、勉強のために手術記録は写真に撮って復習するのだが、
その人が執刀の時は、読み取るだけですげー時間がかかる。
今日もその女医さんが執刀の手術に入った。
縫った糸を切るのは助手の仕事だが、
たまたま立ち位置的に左手でしかハサミを持てない格好になり、
左手で糸を切り続けていた。
「トオルは左利きなの?」と聞かれたので、
「いや、両方使えるんだよ。
元々は左利きなんだけど、日本では手術は右手でやるよう教わるので、
左手は使っちゃいけなかったんだよね」
はー?なんで?左利きは左利きでしょ?!いいじゃん別に!!
もうみんなの中で、日本という国は謎に満ちた存在になってきている。
すると乱筆女子の上級医が言った。
「あーわかった、トオルは左利きなのに右手で書いてるから、字が読みにくいのね」
いや、マジで、あんたにだけは言われたくないから。