アフリカの手術設備
手術は一瞬の出来事の連続。
教科書に書いてあるのは大きな流れだけで、
実際にどうやって手術を進めるかは、
他人の手術を見て、自分で執刀することで学んでいくところが大きい。
その学習で効果的なのが、ビデオだ。
ノートをつけたりスケッチを描いたりはもちろんのこと、
手術の映像を見ることで、より具体的なイメージを焼き付けることができる。
最近の外科の大きな潮流として、
より低侵襲な手術を求めるため、
腹腔鏡を使った手術が増えてきている。
大きな傷をつけて開腹するのではなく、
おへその1センチ弱の傷からカメラを入れる。
さらに左右側腹部に同様の小さな傷をつけて、
マジックハンドのような鉗子を入れて手術を行う。
画面を見ながら手術するので、その画像を録画することで、
上級医や自分の手術を何度でも見直すことができる。
小児外科では、腹腔鏡を使う手術が増えてきているとはいえ、
成人外科と比べると、まだまだおなかを大きく開ける開腹手術が多い。
ここで問題になるのが、開腹手術の映像をどうやって撮るか。
施設によっては天井のライトにカメラが埋め込まれていたりする。
出国前、南アフリカでの研修を思い描いていた。
日本では経験できないような症例がたくさんある。
これらが映像で残ったら、それはそれは貴重な財産だ。
でも手術室の設備はどんな状況かわからない。
日本でウェアラブルカメラを買って、
全部撮ってやろうと意気込んで乗り込んだ。
そしたらこのハイテクな設備!
自由に動かせるカメラもある!
ウェアラブルカメラ、いらなかった・・・
その日はおなかいっぱいに広がる横紋筋肉腫の開腹手術。
カメラの位置はバッチリ合わせた。
よし、録画だ!
と思ったら、メモリーが不足してるから録画できないと・・・
よく見ると、今まで蓄積されたデータがそのままになっていて、
誰も見直したり編集していない。
撮りっぱなしの状態が、5年間くらい続いている。
もちろん日本では、手術が終わったらすぐに見直して復習し、
残すべきものは編集したりする。
以前エチオピアに外科ボランティアミッションで行ったとき、
倉庫に腹腔鏡の豪華な機械がズラリと並んでいて、
誰も使っていないのを思い出した。
設備が整っていても、それを管理する側に問題があれば、
その立派な機械はまったく無駄になってしまう。
ここはチャンスでは?!
自分がデータ管理すれば、今までの貴重な映像を見られるし、
それを編集してみんなに提供すれば、チーム全体の利益にもつながる。
「もしよければ、僕がこれ編集しますよ」
さっそく直近の手術をコンパクトにまとめ、
共有フォルダにアップした。
教授が喜んでくれたのは言うまでもない。
ここを去っても、トオルビデオライブラリがあれば、
このアフリカの病院に自分の足跡を残せるんじゃないか?