やっと医者になりました
ケープタウンに来て1ヶ月ちょっと。
ここはとってもいい病院。
症例数は多いし、同僚はいい人たちばかりだし。
でも、医師登録作業が遅れていて、
医者でもなんでもない「ただの人」の状態が続いていた。
この東洋人、こないだから見かけるけど、
別に薬の処方してくれるわけでもないし、なんなんだろう?
とナースも冷ややかな視線を向けていた。
先週、登録作業を頼んでいる業者にメールすると、
「担当の人が休暇を取ってるから、さらに数日遅れるわね」
とナゾの返事。
休みは取っていいよもちろん。でもだれか代わりにやってよ!
今月中もあやしいかなあと思っていたところ、業者からメールが届いた。
「おめでとうございます。医師登録が完了しました」
やたっ!
今まで手術はせいぜい助手で入るぐらいだったが、
これからは執刀できる!処方も当直もなんでもできる!!
さっそくチーム内メーリスに流した。すると当直医から、
「これからカテーテル入れるけど来る?」
行きますよ行きますよもちろん。
患者は12歳男児。
12歳にしてはひどく小さい。体はガリガリ、皮膚もボロボロだ。
「この子、エイズなのよ。
HIVに感染してる子はこの地域にもたくさんいるわ。
最近は薬がよくなってるから、エイズを発症するのはそこまで多くはないけどね」
カテーテルを入れて皮膚を縫合し終わったあと、同僚が言った。
「針先はかくしてナースに返すようクセをつけてね。
感染のリスクはあなたの国では考えられない高さよ」
たしかにこっちに来て、どの手術においても、
みんな律儀に針先が出ないようにしているなとは思っていたが、
こういう理由だったのか。
こっちでは、針刺し事故が起きたら、
患者と自分の血液検査をしたあと、
すぐさま抗HIVウィルス薬を飲むらしい。
その薬の副作用もきついときはきついみたいだ。
血液検査の結果、患者がHIV陽性だったら、
内服期間が長期にわたることになるのは言うまでもない。
南アフリカで執刀するということは、こういうことなんだな。