誰のための手術？

2日くらい前から手術延期になっている患児がいる。
病名は肥厚性幽門狭窄症。
まだ生後1ヶ月。
元気なんだけど、
胃の出口の筋肉が厚くなっていて、
食べたものをどんどん吐きだしてしまう病気。
緊急手術の適応ではなく、
脱水など補正して万全の状態にしてから手術に臨む。

脱水はとっくに補正されて、
血液検査もいい感じの結果になってて、
早く手術したいのに、手術室が空かない。
予定手術でいっぱいで、かつ16時を越えると、
緊急性がなければ入れてくれない。
たとえ予定手術でも、その前の手術が長引いたりしたら、
16時を越えると翌日に延期になる。
せっかく朝から絶食してたのに、かわいそう・・・

この幽門狭窄症の子も、今朝からずっと待っていたが、
他の科の手術が終わらず入れない。
外科医たちも待ちぼうけ食らって、
「外に昼メシ食いに行こうぜ」と言う始末。

ようやく午後になって入れそうになったとき、当直医に外線が入った。
「今から腎移植するから！ドナーの腎臓はもうすぐ摘出できるから！」

一気にスイッチが切り替わった。
オペ室の準備は？麻酔科の手配は？
幽門狭窄症はもちろん翌日に持ち越し。
摘出した腎臓は一刻も早く移植しなきゃいけない。

患児もオペ室に入室、そして腎臓も届いた！

が、その時だった。

「今2つの部屋で手術中で、ナースがいないから新しい手術は始められないわ。
19時になったら次のシフトのナースが来るから」

えーっ！！
19時ってあと2時間以上もあるじゃん！！

患者も外科医も麻酔科医も腎臓も、みーんな準備万端なのに、
ナースの勤務交代のタイミングが悪いから手術延期って！！
しかも腎臓はその間、どんどん細胞が死んでいく・・・

手術真っ最中の泌尿器科医に相談しに行くと、

「あーこれはもう仕方ないんだよ。
おれも同じような理由で、今までに5個の腎臓を死なせたから」

ありえねー
誰のための手術なんだ？！
患者を救うためじゃないのか？
それよりも自分たちが帰る方が大事なのか？？

いろいろ構造的な問題があるんだろうが、
これはさすがにナシでしょー

「どうせ19時にも始まらないよ」
と言った同僚の予想は的中。

なんだかんだで開腹したときには
21時にさしかかろうとしていた。