インド洋とマダガスカル
海外進出の旅は、早くも機内から始まった。
成田から香港までの4時間のフライトは、隣りに人がいないという幸運に恵まれた。
香港から南アフリカまでは13時間もある。
また一人だったらいいなあと思っていたら、普通におばさんが座ってきた。
マジか・・・
しかもこのおばさん、片言の英語で気安く話しかけてくる。
23時、もう眠いのに・・・
だが、よくその英語を聞いてみると、
その人は医者で、今回日本で2ヶ月間滞在して、母国のマダガスカルに帰る途中らしい。
キラーン
完全にトークモード突入。
自分も医者であるということは、伝えて3回目くらいでようやく通じた。
マダガスカルはフランス語圏だから、英語が不得手なのは仕方ない。
インド洋を越えながら、いろんな話をした。
その先生の専門は救急で、マダガスカルは救急車などないから、
交通事故とかあってもタクシーや自家用車で運ばれてくること、
近くの人がブランケットを担架代わりにして連れてくること、
当直やりすぎて老眼が進んだこと、などなど。
小児外科について聞くと、症例数はたくさんあるよ、とのこと。
がぜん食いつくと、
「いつでも来ていいよ。親戚もいるから、その家に泊まっていいよ」
だって。
同じ医者だからか、日本滞在中に会った日本人に好感を持ったのか、
なにしろすごい親切だ。
「私の娘が日本に留学したいんだけど、どこかいい大学しらない?」
そんなのお安いご用だ。調べて連絡するよ。
マダガスカル人はたいていパリに留学するが、昨今のテロ問題で、
他の国へ流れているらしい。
まだ見ぬマダガスカルという謎の地に、ものすごく夢が膨らんでいる。
現代のネット社会において、たいていの情報はウェブ上で手に入る。
だが、やはり現地に行かないとわからないことがたくさんある。
アフリカに来なければ、マダガスカル島に触れることはなかったであろう。
もしかしたら近い将来、
フランス語ペラペラになってマダガスカルで執刀しているかもしれない。
そんなことはないかもしれないが、日本にいたらその可能性はゼロだった。
実際に現場に行き、人と会って話す。熱意を伝える。
このシンプルな作業の繰り返しで、道を拓くことができると信じてやってきた。
会うからこそ、相手の表情、感触、空気感、いろんなことがわかる。
相手も、自分の言語力、思考力、熱さを直接評価できる。
もちろんうまくいかないことばかり。うまくいくことなんてごくわずかだ。
でも一個とっかかりをみつけたら、そこにしがみついて、突き進むしかない。