知りたくなかった現実

いつかは自分のところにまわってくるんだろうなと思ってはいたが、ついに来た。 まったく予想もしていなかった。朝から小手術をいくつか担当していて、一息ついたところにいきなり声をかけられた。 「トオル!オペ室に行ってもらえる?」 下半身に外傷を受け…

すぐ隣りにいる同僚

「腹減ったなー。メシ食いに行こうぜ」「おーいいね。どこの店にしよっか?」 こんな何気ない会話も、ここケープタウンだと気軽にはできない。 南アフリカは、アフリカの中でも別格に金持ちだ。スタバ的なちょっとオシャレなコーヒーが200円、レストランでち…

海外へのススメ

南アフリカにいると、ヨーロッパやアフリカ諸国から来たたくさんの外国人医師に出会う。そして南アフリカ人医師の多くも、カナダやオーストラリアで職を見つけている。日本では見られないような、国をまたがって人材が行き来する大きなムーブメントを感じる…

教科書に載ってない病気

救急医から電話がかかってきた。 「3歳の女の子。イタズラされて棒のようなものを入れられて出血してるんだ!」 急いで救急外来に向かう。たしかに膣から出血している。パンツは血まみれ。幸い血圧などのバイタルサインは落ち着いているようだ。 詳しく事情…

手術で自立する

病院は12月上旬から早くも休み体制。予定手術はなく、ベッドはガラガラ。病棟は朝からクリスマスソングがガンガンかかっていて、働く気配全くなし。 それでも緊急手術の数は減らない。割り当てられた当直医が、次々と送られてくる患者を対応する。 今日の当…

日本人といえば?

手術室に行ったら麻酔科の女医さんに話しかけられた。旦那が学会で日本に行ったらしく、メールで送られて来た日本の感想を見せてくれた。 日本人といえば・・・ 男性はスーツを着て、女性はこぎれいな格好をしているみな礼儀正しく、親切にしてくれる狭い駐…

ケープタウンで手巻き寿司

南半球にあるケープタウンは、本格的な夏に入った。週末になると、テーブルマウンテンなどの観光地は、海外から来た観光客だらけ。じゃあ地元の南ア人たちはどこに行くの?そう、郊外の人気の少ないところに行ってキャンプしたりする。 同僚にキャンプに誘っ…

電話がつらい

英語環境で働いていて、いつまで経っても苦しむだろうなーと思うのが、電話。ふつうの会話だったら、表情とかしぐさとか雰囲気とか、いろんな情報があるが、電話は声だけ。 当直をすると、病院の中から外からガンガン電話がかかってくる。 南アフリカには、…

こんなところにも日本人

ケープタウンは人口374万人、南アフリカ第2の都市。そんな大きな街でも、日常生活を送る限り、日本人どころか東洋人に会うことはほとんどない。聞けば、ケープタウンに日本人は100人くらいしかいないらしい。 それでも、どこで事故があったとか、ここは危な…

患者が運ばれてこない!

昼の12時頃、他の病院から紹介の電話が来た。 「生まれたばかりの男の子、腹壁破裂で生まれてきた!」 腹壁破裂、名前の通り病態も激しい。ヘソの緒の横側の腹壁が弱くなっていて、腸が体の外に飛び出した状態で生まれてくる病気だ。 日本では、妊婦検診での…

大使館からやってきた!

公の人から連絡が来ると、どうもビビってしまう性質だが、別になにか悪いことをしたわけではありません。ブログを読んで頂いた南アフリカ大使館の医務官の方が、当院に見学に来てくださったのだ。 医務官ってどんなお仕事?世界各国の在外公館にいる医師で、…

飲んだらマズいもの

モノを飲んじゃったシリーズ第2弾。 小さな子どもはほんとにすぐモノを口に入れてしまう。以前書いたとおり、コインは食道を通ってしまいさえすればほぼ問題ない。ただ、飲んでしまったらかなりマズいものがある。それは、マグネットだ。 その日の当直はかな…

麻酔科 vs 外科 白熱の戦い

家と病院とは徒歩10分くらい。ちょうどその間に大きな公園というか原っぱがある。その周りがマラソンコースになっていて、朝と夕方には、ラッシュのごとく、たくさんの人が走っている。 ちなみに今年は、ちょうど病院創立60周年らしい。記念イベントとして、…

子どもはいろんなものを飲んじゃいます

3歳くらいまでの子どもは、なんでもすぐに口に入れちゃう。これは日本でも南アフリカでも同じ。 一番多いのがコイン誤飲。処置が必要かどうかの判断は、食道を通過するかどうか。胃まで到達してたらほとんど問題なし。時間が経てば、うんちと一緒に肛門から…

肛門がない!

当直の日の夜中0時、近くの病院から電話がかかってきた。 「産まれたばっかりの女の子なんだけど、肛門がないんです」 34週2,100グラムの早産児。直腸肛門奇形、いわゆる鎖肛が疑われる。すぐに手術が必要になるため、うちの病院に搬送してもらうよう伝えた…

ケープタウンが世界初?

同僚の実家に遊びに行ったら、お母さんの自慢話に花が咲いた。「この写真に写ってるのが私なのよ」 1967年、世界で始めて心臓移植が行われたのがここケープタウンの病院。そこで看護師として働いていた彼女にとって、この世界初の現場にいたことはとても誇り…

アフリカの手術設備

手術は一瞬の出来事の連続。教科書に書いてあるのは大きな流れだけで、実際にどうやって手術を進めるかは、他人の手術を見て、自分で執刀することで学んでいくところが大きい。 その学習で効果的なのが、ビデオだ。ノートをつけたりスケッチを描いたりはもち…

考えを言葉にする教育

海外のいくつかの国で手術室に入らせてもらってきたが、日本と海外の大きな違いは、その教育スタイルにある。 日本の外科医は「見て盗め」型。上級医は多くを語らない。研修医も、見るポジションを奪い合って、なんとか上級医の技を盗んでやろうと必死だ。な…

ネット探しの旅

海外に行くと、誰しも日本のありがたみを思い知る。以前は「日本食が恋しいなあ」とよく言われていたが、それでも今では、だいたいどこへ行っても日本食が食べられたりする。 現代において、海外で一番困るもの、そう、それはインターネットだ。 よくわから…

郷に入れば・・・

手術の世界は基本的には徒弟制度。 自分の前に立つ上級医は絶対的な存在だ。 こちらは学ばせてもらっている身。 上級医によって微妙にやり方が違うが、それを合わせるのは、 学んでいるこちら側だ。ここケープタウンの病院は、国際色が豊かだ。 前立ちの先生…

銃で撃たれる子どもたち

「外傷を学ぶにはヨハネスブルグに行け」 こんな格言が、血の気多めの医者たちの間にはある。 ヨハネスブルグは南アフリカ東部にある、国内で一番大きな街。「5分歩いたら襲われる」とまことしやかに言われる、世界有数のデンジャラスな場所である。 ここケ…

英語の壁

「トオル、英語上手だね」こう言われて嬉しいか?いや、逆だ。「おまえの英語はまだまだだな」と言われているのと同じ。 例えばケントデリカットとか、ウィッキーさんみたいに(古い?!)、日本語で日本に馴染んでいる人たちに対して、「日本語上手ですね」…

紙カルテ

こっちで働いててなにが困るって紙カルテ。そんなの昔は当たり前だったぞ!と上の先生方にはお叱りを受けそうだが、IT世代としては、電子カルテに慣れすぎてて不便きわまりない。 電子カルテなら、PCに向かいさえすれば、どの患者の記録も検査結果も画像結果…

ワークライフバランス

なぜかこっちで知り合う人はいい人が多い。同じ小児外科のチームも、一人くらい嫌なヤツがいてもいいのに、みんないい人。ふつう、外科医は変な人が多い。こんないい人だらけの環境で働くのは初めてだ。なぜなんだろう?ここで仮説を立てた。 この人たち、Wo…

その検査は必要?

外科医には手術以外にも、 患者の術前術後管理という重要な仕事がある。 この患者は手術に耐えうるのか、そもそも手術が適切なのか。 術後はしっかり回復しているのか、合併症など起きていないか。 この管理に重要な位置を占めるのが、検査だ。 日本だと、手…

仕事をする喜び

病院に向かう足取りも軽い。医師登録が終わり、ようやく一人前に仕事ができるようになったからだ。当番表を決めるシニアレジデント(上の方の研修医)には、じゃんじゃん仕事入れてね、と言っておいた。 「じゃあ軽いのから始めよっか」 といきなり日帰り手…

ミニの魔力

最近ようやく春らしくなってきた。 こっちは南半球だから、季節は真逆。南アフリカは緯度がけっこうあるから、雪こそ降らないけど、冬はけっこう寒い。 そして病院の前には早くもこんな飾り付けが。 まだ10月だぜ?!ずいぶん先取りだなあ。それにしても12月…

やっと医者になりました

ケープタウンに来て1ヶ月ちょっと。 ここはとってもいい病院。症例数は多いし、同僚はいい人たちばかりだし。でも、医師登録作業が遅れていて、医者でもなんでもない「ただの人」の状態が続いていた。 この東洋人、こないだから見かけるけど、別に薬の処方し…

病院食堂

うちの病院の食堂はまずくて有名だ。 ランチタイムでもガラガラ。「Halal Food Only」って書いてある。なんだハラールって?聞くとイスラム教徒の食事みたい。そんなに南アフリカではイスラム教徒を見ないけどね。 だからランチはみんな、自分で持ってくるか…

喜望峰

「喜望峰に行こうよ」 同僚が誘ってくれた。遠い昔に世界史の授業で習った場所。バスコダガマ?だよね?センター試験を受けたときは、もっと詳しかったのになぁ。 西アフリカのガーナから研修に来てる医師も一緒に行くことになった。クルマの中では、もっぱ…